(明智こぶ郎の事件簿) スクリプト・ドクターの憂鬱
俺の名前は明智こぶ郎。しがない探偵もどきだ。
だが、張り込みも、尾行も、格闘もしない。
武器は目の前のパソコン一台。
ただの安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)と世間は蔑むだろう。
でも、人の居場所なんて、案外たやすく見つけられるもんなんだぜ。
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今回のヤマはこんな話だ。
犯人が送ってきたのは「創作落語」という挑戦状だ。いつもの居場所当てではないが、運の悪いことに、俺はTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」でおなじみ、三宅隆太監督の特別番組「夜ふけの創作工房 ママとパパのためのはじめてのおはなしづくり講座」をポットキャストで聞いたばかりで、腕が鳴っていたところだ。
三宅監督といえば「スクリプト・ドクター」つまり「脚本のお医者さん」としても有名だ。早速、「おはなしづくりのための書き込みシート」で犯人の挑戦状に書かれた創作落語を「診察」する。
1 あなたのお話の主人公はどんな人ですか?
2 あなたのお話は主人公が何をするお話ですか?
3 あなたのお話を通じて、読み手に伝えたいことはありますか?
4 あなたのお話のあらすじを簡単に2行程度で書いて下さい
5 クライマックスにはどんな出来事が起こりますか?
6 クライマックスの直前にはどんな出来事が起こりますか?
7 あなたのお話のきっかけとなる出来事、事件などはどんなことですか?
8 あなたのお話はどんなラストを迎えますか?
9 お話の中間部で起きる葛藤・衝突はどんなものですか?
10 主人公にとっての敵対者(宿敵、ライバル、目の上のたんこぶ)のキャラクターがもし思いつくようであれば、どんな人ですか?
11 主人公にとっての協力者(ヘルパー)のイメージが湧く人がいますか?
12 主人公にとっての破るべき殻は何ですか?
13 あなたにとってあなたの物語はどんな意味を持つものですか?
この13問の質問に当てはめてみると、犯人の書いた挑戦状は、主人公つまり「ご隠居」のキャラクター設定が不足していることが分かる。
せっかく「読書会をする」という物語のレール(軌道)はしっかり通っているのに、主人公のキャラクター描写が足りないので、主人公が勝手に動いて物語を展開させてくれない。
そこでご隠居が長屋の大家であり、以前から無理難題を言う癖があるキャラクターにして、長屋の住人がご隠居の言うことを聞かなければならないという設定を強化した。
さらに主人公が弱点を持っているとその魅力が増すので、「なぜ読書会をするのか」という理由も兼ねて、「妻に先立たれて人さみしい」という設定を追加した。これにより、読者が共感する余地を作るとともに、ご隠居が先妻を亡くしたという「破るべき殻」も設定できる。
もう一つ問題だったのは、挑戦状に書かれた内容では、この物語が作者にとって意味するところは「古典小説なんか読まなくてよい」となってしまう点である。犯人は、むしろ日常に直接役立たない教養の価値についてブログで散々書いているのだから、これでは逆の意味になってしまう。
したがって、古典小説を勧める主人公が肯定される内容に変えるために、長屋の住人を「敵対者」の位置から「協力者」の位置へ移し、ご隠居の要請を共謀して叶えてあげる人情噺として、コペルニクス的転換を図った。
この際、長屋の住人が繰り出すエピソードはそのまま使った。協力者に配置換えしたので、同じ行為がすべて善意からの企てと読み替え可能だからだ。
最後のサゲには苦労した。挑戦状に書かれた物語では、なぜ「戦争と平和」をご隠居が取り上げたのかが、最後まで説明されていない。そこで「戦争と平和」と「100分 de 名著」の両方を取り込んだダジャレでオトそうと思ったが、これが難しく、全く思いつかなかった。
しかし「人情噺なので、サゲはさらっとしていてよい」という小林君のアドバイスもあって、「戦争と平和」はご隠居と奥さんの思い出の品だったというサゲにした。これは、権造が直前に引用した「戦争と平和」の文章から発想したものだった。
後は、クライマックスにつながるマクラを書いて最初におけば、スクリプト・ドクター的に正しい創作落語の出来上がりだ。
普段、小説など読まない俺でも「書き込みシート」一枚で、ここまでリライトできるとは、我ながら驚いた。
ただ、この手法を使って俺自身がおはなしを考えても、決まって韓国ドラマに似たものしか思いつかないのは、一体どうしたことか。
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