(明智こぶ郎の事件簿) まだらの犬
俺の名前は明智こぶ郎。しがない探偵もどきだ。
だが、張り込みも、尾行も、格闘もしない。
武器は目の前のパソコン一台。
ただの安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)と世間は蔑むだろう。
でも、人の居場所なんて、案外たやすく見つけられるもんなんだぜ。
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今回のヤマは、相当難問だった。
写真には涼しげな砂浜と東洋風の欄干のついた東屋(まずまや)の向こうに見える海の風景。挑戦文には、そこまで市街地から1時間に一本バスが出ていて、所要時間が1時間かかるとしか書いていない。
俺は韓国には何度も行っているが、当然こんな場所など訪れたこともない。
別の挑戦文にだけ答えて、この挑戦文には答えを返さないでいたら、犯人は次のヒントをよこしてきた。
この写真の街には行ったことがあるから、海から街を眺める風景にも見覚えがある。
釜山(プサン)だ。
そこで釜山の市外バスターミナルの時刻表を検索して(勿論ハングルである)、1時間で行ける場所を調べてみたが、めぼしい場所は分からなかった。
今回の犯人は執拗だった。どうしても場所を当てて欲しいようだ。再び挑戦状をよこした。
KTX(韓国の新幹線)の簡単な時刻表は日本語でも見つかる。釜山からおよそ30分の駅は東大邱(トンテグ)駅だ。そこで、大邱の市外バスターミナルから1時間半で行ける場所を時刻表で探すが、判然としない。
残ったヒントは、「大切な思い出」という言葉だけである。
犯人にとって韓国における思い出とは、留学時代の出来事に違いない。そして、前にも書いたように、この犯人は出来事を正確に書きすぎるきらいがある。
そこで犯人が以前書いたブログ記事を検索し、その中から正解を見つけることにした。統計学で例えれば、「ブートストラップ法」のようなやり方だ。
あっけなく答えが判明した。
「文武水中大王陵」という名称で調べると、例の欄干の東屋は「利見台(イギョンデ)」ということも分かった。
なぜ犯人が執拗に答えを求めていたのか。それは、最初のヒント写真が「答え」そのものだったからである。そして、それほどまでして、自分の思い出を誰かと共有したかったのであろう。
心理学には「まだらの犬」という話がある。あいまいに写った写真の中の犬は、最初はそれが何なのか分からない。だが、「犬だ」と教えられた瞬間に、それは「犬」に見えるようになって、もう他の動物には見えない。
答えは最初から俺の眼前にあった。だが犯人の「思い」に気づくまでは、それは見えていても見えなかったのだ。
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